一本一本を紡ぐ:手作業が息づく製造工程を紹介します。

ジーンズ企画工房は、長年、国内ブランドのOEM生産を培ってきた経験を活かし、オリジナルのジーンズやカジュアル製品の企画・製造・販売をしています。地元企業と協力しながら、職人たちが細部までこだわった、11本完成度の高いジーンズができるまでの工程をご紹介します。

 

1. 生地選定 デニムの聖地が生むテキスタイル〜

 デニムを作る機屋の現場

当工房では、主に岡山県井原市で生産される高品質なデニム生地を使用しています。井原は江戸時代から綿織物の産地として発展し、現在では世界的にも知られる“デニムの聖地”として名を馳せています。

     セルヴィッチデニムを織る経糸

旧式の力織機(シャトル織機)で織られるデニム生地の経糸で、両端に見られる「耳」の部分にも使われる糸です。この糸は、生地がほつれないようにするためのもので、デニム生地の端を補強する役割も果たします。

 

シャトルに緯糸を巻いた木管

シャトルの内側に、緯糸を巻いた「木管(もっかん)」をはめ込んで、織機に設置します。

 

経糸の間に緯糸を通し生地を織る

シャトルが左に右に動きながら、経糸を上下に動かすパーツに経糸を一本ずつ通していきます。

 

生地を織る

シャトル織機で織られたデニムは、独特の風合いと色落ちが特徴で、特にセルビッチデニムとして知られています。シャトル織機は生産性が低いものの、その低速で織る工程が、生地に凹凸感を生み出し、独特の風合いと色落ちを生み出す要因となります。また、生地の端に「耳」と呼ばれるほつれ止めが施されているのが特徴で、これもシャトル織機でしか作れないディテールです。

 

2. パターン設計 〜曲線と構造で生まれる穿き心地〜

ジーンズ企画工房では、代表自らパターンを設計していきます。これは、創業以来培われてきた“身体に馴染む服作り”を体現するためであり、先代である父から受け継いだ技術と視点が、その土台にあります。かつて父が培ったミシン縫製や立体裁断の知識をもとに、現代のシルエットに昇華させながら、一本一本設計しています。

パターンを引く

体にフィットし、なおかつ動きやすいジーンズをつくるためには、パターンメイキングの精度が不可欠です。CADでは再現しきれない微妙な曲線や立体感を、人体の立体構造を理解した手引きで描き起こしていきます。

 

パンツの曲線を引く

私たちが行っているのは、ただの“前後身頃の貼り合わせ”ではありません。テーパード具合やレングスごとのグレーディングも、単純なサイズ展開ではなく、実際の着用者の動作や体重移動に着目して構成しています。フルオーダーにおいては、お客様ごとの体形にあわせ、まさに、“着る人の動きに沿う”パターンを1点ずつ仕立てています。

 

3. 型入れと裁断 〜精密な配置と切り出しの技術〜

生地の地の目を正確に型入れしていく

完成したパターンは、デニム生地に型入れを行い、裁断をしていきます。型入れには職人の目と経験が欠かせません。パターンのラインが生地のバイアス(斜め方向)にずれてしまえば、ねじれや突っ張りの原因になります。

 

パーツの位置も考えながら、型入れ

ここでは、生地の地の目を正確に合わせることが極めて重要です。特に耳付きのセルビッジデニムの場合、セルビッジを活かした型入れと、履いたときの可動性の両立を意識してパーツ配置を行います。

 

線の内側をはさみで裁断していく

裁断は裁断機や裁ちバサミを使い分け、線の内側を正確にトレースしていきます。

 

4. 縫製 〜熟練と情熱が縫い重なる現場〜

裁断された各パーツは、いよいよ縫製工程へと進みます。ここでは、ジーンズ特有のタフな素材を扱いながら、正確かつ美しく縫い上げる高度な技術が求められます。

縫製の前準備としてアイロンをすることで、キレイに縫製が出来る。

縫製の仕上がりを左右する重要な工程が「アイロンワーク」です。縫製途中で何度もアイロンを使い、パーツを整えながら縫い進めることで、クセとりをしながらキレイに縫い上げていきます。

 

50年以上の熟練職人が丁寧に縫製

当社では、50年以上のキャリアを持つ熟練職人が中心となり、一本一本丁寧に縫製を行っています。巻き縫い、割り縫い、袋縫い用途やデザインに応じて最適な縫製仕様を見極め、適所に施すことで、耐久性とデザイン性を両立させています。特に、脇線や股ぐり部分など、負荷のかかる部位には強度を高める補強ステッチを施すなど、細部への気配りも徹底しています。

 

裾のアタリを出すためのチェーンステッチミシン「ユニオンスペシャル」

裾のアタリを美しく表現するために、チェーンステッチ専用のユニオンスペシャルを使用。生地をねじりながら縫うことで、洗い後に独特のねじれとアタリが生まれ、ヴィンテージさながらの表情が育っていきます。

 

20代の若手スタッフも奮闘中

当社では、技術の継承にも積極的に取り組んでいます。20代の若手スタッフも、日々先輩職人の背中を見ながら実地で技術を学び、挑戦を続けています。1本のジーンズには、熟練の精度と若い情熱の両方が詰まっているのです。

 

5. 洗い・乾燥加工 〜風合いと履き心地を引き出す仕上げ工程〜

ジーンズを洗う準備

出来上がったジーンズは、仕上げ工程として洗い・脱水・乾燥をしていきます。この工程では、生地に残る「糊(のり)」や製造中に付着した微細な汚れを落としながら、生地の風合いを和らげ、肌馴染みの良い柔らかさを出していきます。デニムはもともとコシが強くハリのある生地であるため、そのままでは硬さが残ってしまいます。

 

ジーンズの水洗い

ジーンズの水洗いは、まず裏返しの状態で丁寧に扱ってもらいます。柔軟剤の使用は、色落ちや風合いの変化を防ぐため控えめにされることが一般的です。

 

ジーンズを脱水

脱水も生地へのダメージを避けるため、短時間で慎重に行われます。専門業者に任せることで、ジーンズ本来の風合いを保ちながら、清潔に仕上げてもらえます。

 

ジーンズの乾燥

ジーンズを乾かすことは、手軽で時間を節約できる方法として便利です。特に低温乾燥で生地へのダメージを抑えながら、スピーディに乾かすことが重要です。軽く縮ませてフィット感を出したい場合にも、乾燥機は効果的です。

 

窯に石をいれて洗う

ジーンズを石と一緒に洗濯し、表面を擦り減らして古着のような風合いを出します。生地表面をわずかに毛羽立たせて柔らかさとナチュラルな色落ち感を演出します。

 

ジーンズの色をテスト

バイオ加工、ブリーチ加工、染め加工(オーバーダイ)など、薬品によってインディゴを脱色し、淡く明るい色合いや激しい色落ち感を演出します。ムラ感やグラデーションの調整が可能で、ヴィンテージ風の加工表現に最適です。

 

6. 検品 〜最終チェックで誇れる品質を〜

一本一本 検品

洗い上がった製品をプレス仕上げしたあと、出荷前に必ず全量検品を行います。縫い目のほつれ、目とび、ファスナー、ボタン、色ムラ、ヨゴレなど、1本ずつ検査していきます。特に、内側の耳端のステッチ具合や、ポケット内のロック処理の始末など、目に見えにくい箇所まで入念に確認します。

 

内側も細かく検品

お客様の手元に届いたときに「これなら長く愛用できる」と感じていただけるよう、最終工程で責任をもって仕上げます。

 

7. 販売・アフターケア 〜届けるだけで終わらない〜

出来上がったジーンズ

完成したジーンズは、工房併設の直営店およびオンラインショップにて販売しています。私たちは使い手と作り手がつながることを大切にしており、サイズ相談・フィッティング・フルオーダーにも柔軟に対応しています。

 

チェーンステッチで裾直し

購入後の裾上げや、リペア(穴補修・ステッチ補強・ファスナー交換等)などといったアフターケアも承っています。お客様に、ジーンズを“育てる”楽しみや、笑顔になっていただくことが、私たちの喜びです。

 

作り手の想い 〜毎日はける、ここにしかない一本〜

私たちは、広島県府中市の小さな工房から、心を込めて一本一本のジーンズをつくっています。広島県はデニム生地の生産量、日本一でもあり、国内のシェア8割を占めている盛んな産地です。当工房でも出来上がったジーンズは、ただ売るための“商品”ではなく、誰かの日々を一緒に過ごして、笑顔になってもらえれたらと思っています。「毎日はける、ここにしかない一本」。そんなジーンズを、これからも作り続けていきたいと思っています。

 

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